研究室の皿の中に、ゴマ粒ほどの大きさの小さな組織があります。よく見ると、それは規則正しく動いており、顕微鏡を使わなくてもはっきりと拍動しているのが分かります。これはSF映画のシーンではありません。医学の未来を変える可能性のある、人工的に作られた人間のミニ心臓です。
ミシガン州立大学のアイター・アギーレ准教授が率いる研究チームは、この立体的な心臓オルガノイド(ミニ臓器)の作製に成功しました。研究チームは、提供された人間の幹細胞を使用しました。この細胞は、心臓の組織を作るために必要な様々な細胞に変化する特別な能力を持っています。完成したミニ心臓は非常に複雑で、内部にいくつかの部屋のような構造を持ち、動脈や静脈などの血管網まで作られています。
心臓の病気は多くの国で主な死亡原因となっていますが、これまでの研究は主にマウスなどの動物実験に頼っていました。しかし、動物の心臓は人間の心臓と構造や電気的な特徴が大きく異なるため、新しい薬の開発が難しいという問題がありました。特に、脈拍が乱れる「心房細動」という病気は、動物では再現が難しく、30年以上も新しい薬が登場していません。
そこで研究チームは、このミニ心臓に免疫細胞の一種である「マクロファージ」を加えました。この細胞は、心臓の動きを整える役割を持っています。このミニ心臓に炎症を起こす物質を加えたところ、人間の心房細動と同じように、拍動が不規則になる現象が確認されました。さらに、抗炎症薬を投与すると、その乱れたリズムが元に戻ることも確認できました。
この研究成果は科学誌に発表され、今後は動物実験の代わりに、人間の細胞で直接薬の効果をテストできるようになると期待されています。この技術はすでに民間企業にライセンスが提供されており、新しい治療薬の開発に向けて実用化が進められています。