車窓 の 外 を、 灰色 と 金色 の 風景 が 流れ続けた。 東方 領土 の 平野 は 空 の 下 に 果てしなく 広がっており、 その 空 は まだ 夜 の 名残 で 薄く 紫 が かっている ようだった。 エドワード・エルリック は 左 膝 を 胸 に 引き寄せながら 座り、 顎 を その 膝 の 上 に 乗せて、 まるで 景色 に 挑みかかる よう に 窓 の 外 を 眺めていた。 隣 で は、 弟 の アルフォンス が 大半 の 乗客なら 迷惑 に 感じる ほど の 場所 を 占めていた。 鋼鉄 の 肩 当て だけ でも 小 猫 が 一 匹 住め そうな ほど の 大き さ で、 呼吸 も 鼓動 も 持たず、 体 が 固まる こと も ない 存在 として、 彼 は 特有 の 完全な 静止 の 中 に 座っていた。
「 また 考えてる」 と アル が 言った。
「 いつも 考えてる」
「 考え方 が うるさい」
エド は 何 も 答えなかった。 列車 が 揺れた。 三 列 前 の 子供 が オレンジ を 食べていて、 その 香り が 鋭く 甘く エド の ところ まで 届いた。 その 瞬間、 彼 は 全く 別 の 場所 に いた。 こういう 匂い に 不意 を つか れる たび に、 彼 は いつも 記憶 の 錬金術 によって、 長年 逃れよう と していた 場所 へ と 連れ戻さ れる のだった。
台所 に いた。 十 歳だった。 母 が 生きていた。
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最期 の 頃、 母 は 痩せていた。 それ が 最も 鮮明 に 残っている 記憶だった。 彼女 が 健康だった 頃 の 豊かな 記憶 が 押し寄せてくる 前 に、 まず その 痩せた 姿 が 浮かぶ のだ。 病気 が 彼女 から 実体 を 奪っていった 様子 は、 水 が 溶ける 石 から 塩 を 引き出す か の ようだった。 流行 病 が 終わり を 迎える 頃 に は、 彼女 は ほとんど そこ に いない も 同然 に なっていた。 トリシャ・エルリック は 初春 の ある 朝、 リゼンブール の 村 で 亡くなった。 そして エドワード の 目 に は、 世界 は それ を まるで 気 に 留めていない よう に 映った。 鳥 は 変わらず 鳴き、 隣 の 畑 に は ロック ベル の 家 が 変わらず 立ち、 川 は 変わらず 流れていた。 その あまり に も 無関心な 世界 が、 彼 に は 許せなかった。
エドワード は 十 歳で、 アルフォンス は 九 歳だった。 父 は 何 年 も 前 から 姿 を 消していて、 残さ れた の は 文通 用 の 住所 と、 季節 を 重ねる たび により 雄弁 に なっていく 沈黙 だけだった。
最初 に それ を 口 に した の は エドワードだった。 言うべきでない こと を いつも 最初 に 言う の は 彼だった のだ。 二 人 は ピナコ・ロックベル の 居間 に 座っていた。 自分 たち の 体 に 収まりきらない ほど 大きな 悲しみ で 空洞 に なりながら、 彼 は 言った。 方法 が ある、 と。 ほとんど の 発言 と 同じ よう に、 まるで その 言葉 自体 が 一種 の 論証である か の よう に、 自分 の 確信 の 強 さ だけ で 真実 に なると でも 言いたげ に、 彼 は そう 言った のだった。
アル は エド を 見た。 アル は いつも そうである よう に、 すぐ に 理解 した。
人体 錬成 は 禁じ られている、 と アル は 言った。
そうだ な、 と エド は 同意 した。 やる 価値 の ある こと は たいてい そうだ。
三 年間 かけて 準備 が 進め られた。 錬金術 の 書物 と 深夜 の 研究、 そして 知識 を 丁寧 かつ 緻密 に 積み重ねていった 三 年間。 その間、 ピナコ は 決して 説明 する こと の ない 表情 で 二 人 を 見守り、 ウィンリィ は 茶 を 運んでくれ、 やがて ただ 一緒 に 座る よう に なった。 勉強 が 二 人 にとって 大切な こと の ようだ から、 彼女 にとって も 大切だ という こと に なった のだ。 二 人 は 子供 が 感謝 する ような 仕方 で 感謝 していた。 完全 に、 深く 考えず に、 感謝 そのもの に 重 さ が ある こと を 知らない まま。
挑戦 した 夜、 家 の 中 に は チョーク と 蝋燭 の 匂い が 漂い、 恐怖 の 特有 の 刺激 臭 が 混じっていた。 当時、 彼 は それ を 恐怖 と は 名付けなかった。
今 は 名付け られた。
錬成 陣 は 完璧だった。 エドワード は 四 回 確認 し、 アル は さらに 二 回 確認 した。 素材 と なる 物質 が 揃え られた。 炭素、 水素、 酸素、 窒素、 各種 ミネラル 成分、 水、 それら すべて が 計測 さ れて 正確 に 整え られ、 二 人 は 蝋燭 の 灯 の 中 で 陣 を 挟んで 向かい合い、 エドワード は 思った。 これ は うまく いく、 と。
その 確信 について、 彼 は 時々 考える こと が あった。 その 完全 さ について。 あれ が 傲慢 という もの の 内側 から の 感触な のだろう か と。 正確 に は 傲慢で はなく、 純粋で 明るい 自信、 自分 自身 の 土台 を 一 度 も 疑った こと が ない 完全な 信念 の ような ものだった。
錬成 陣 が 起動 した。
そして、 まだ 言葉 を 持っていなかった ような 仕方 で、 すべて が 崩れ落ちた。
エネルギー は 通常 の 錬成 と は 異なる 動き 方 を した。 目的 を 持ち、 構造 化 さ れ、 世界 が 一瞬 交渉 可能 に なり 新たな 形 に 落ち着く ような、 あの 感触 で は なかった。 これ は 別 の ものだった。 押す ので はなく 引く ものだった。 最初 に 感じた の は 欠如 感、 現実 の 床 の 下 に ある 歪み の ような ものだった。 そして 錬成 陣 が 崩れ始め、「 眼」 が 開いた。 自分 が 取り返し の つかない 過ち を 犯した のだ と 理解 する ちょうど 十分な 時間 だけ が あって、 世界 が 彼 を 丸ごと 飲み込んだ。
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白。 全て が 白だった。
雪 や 紙 や 清潔な リネン の 白 で はない。 何 に も 適用 さ れる 前 の 白 という 概念 そのもの の 白、 不在 として の 白だった。 彼 は その 中 に 立ち、 それ が 彼 の 周り に 立ち、 扉 は そこ に あった。 巨大で 石 の よう に 灰色 で、 直接 見ない と 動いている よう に 見える 彫刻 で 覆わ れていた。
「 ようこそ」
その 存在 も 白だった。 白く 形 を 持たず、 彼 の 顔 を していた。
エドワード は 十 一 歳で、 叫ばなかった。 その こと を ずっと、 複雑な 気持ち を 持ちながら も 誇り に 思っていた。 十 一 歳で、 恐怖 の 中 で、 それでも 地 に 足 を つけた まま、 この 場所 は 何 か、 この 存在 は 何かと 問い質した。 その 存在 は 彼 自身 の 顔 で 微笑みながら 言った。 全て。 無。 神。 真理。 お前。
彼 は それ を「 真理」 と 呼ぶ こと に した。 神 と 呼ぶ より 危険 が 少ない よう に 思えた からだ。
真理 が 扉 を 開いた。
情報 は 書物 から 受け取る 時 の よう に は 入ってこなかった。 それ は 挿入 さ れ、 強制 的 に、 より 小さな もの の ため に 設計 さ れた スロット に 手紙 を 押し込む 無 関心 さ で、 彼 の 頭 の 中 に 叩き込ま れた。 何 か が 壊れ、 再 形成 さ れる の を 感じた。 その 連鎖 する ほんの 数 秒 の 間 に、 錬金術 について、 世界 について、 物質 と 意味 の 深い 構造 について、 後 に 完全 に は 言語 化 できない もの を 理解 した。 ただ アクセス できる、 長年 歩き続けて 階段 が 目 に 入らなく なった 時 の よう に。 真理 が 扉 を 閉じ、 彼 自身 の 顔 で 微笑んで 言った。
お前 は 戻りたい のだろう。 代価 が ある。
もう 払った。
少し は 払った。 戻る ため に は もっと 必要だ。 戻る ため に は、 これ が 必要だ。
左 脚 が 溶け始めた。
その 感触 を 表す 言葉 が 彼 に は なかった。 ひどく 疲れて 気 が 緩んでいる 時、 言葉 を 探そう と した こと が あった。 ふさわしい 言葉 は 見つからなかった。 最も 近かった の は、 それ は 自分 に 起きた 最も 正直な 出来事だった、 という ものだった。 比喩 も なく、 緩衝 も なく、 媒介 も なかった。 代価 は 代価であり、 それ は 取ら れ、 彼 は チョーク で 描か れた 床 に 血 を 流しながら、 台所 の 廃墟 の 中 に 戻っていた。 左 脚 は 膝 から 下 が 濡れた 欠如 として 終わっており、 鉄 の 匂い が 舌 に 触れる ほど 濃かった。
最初 に アル を 探した。 アル はいなかった。
次に 母 を 探した。 錬成 陣 の 中心 に 見つけた の は、 一度、 二 度、 三 度 だけ 呼吸 し、 それ 以上 呼吸 しない 何 かだった。 トリシャ・エルリック を 作ろう と した 試み が どこ か に 含ま れている 材料 から 組み立て られた、 しかし 決して 彼女 で はなく、 世界 が 慈悲 深く も 素早く 回収 した 何 かだった。 長く 見る こと は できなかった。 できなかった のだ。
シャツ から 引き裂いた 布 で 脚 に 包帯 を 巻いた。 片手 で 圧迫 を 保持 する 必要 が あった ため、 歯 と 残った 一方 の 手 だけで、 それ を 行った。 酷い 巻き 方だった が、 それ は どうで も よかった。 重要な の は 意識 を 保ち続けて 考え られた ことだった。 アル の 体 は 消えていた。 しかし アル に は 魂 が あり、 魂 は どこ か に ある はずだった。 部屋 の 隅 に あった 鎧、 父 の 古い 訓練 用 の 鋼鉄 の 空 の 鎧 が、 必要な 時 に そこ に ある よう に 道具 は そこ に あった。 それ を 必死な 考え や 狂気 と 捉える こと は しなかった。 そう 捉える こと は 別 の 選択肢 を 考える こと を 意味 するからだった。
他 に 書く もの が 何 も なかった から、 自分 の 血 で 兜 の 内側 に 血 の 紋 を 描いた。
両手 を 合わせた。
真理 に 向けて、 あるいは 祈る よう に、 あるいは 単に 自分 の 意識 を 向けながら、 彼 は 思った。 アル を 返してくれ。 何 でも 取って いい。 心臓 でも 持っていけ。 アル を 返してくれ。
錬成 は 右腕 を 奪った。
意識 が 遠のく 中 で 彼 は 思った。 それ が 妥当だ、 と。
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「 兄さん」
エド は 目 を しばたたか せた。 列車。 平野。 オレンジ の 香り、 もう 薄れていた。
「 しばらく 別 の 場所 に いた ね」 と アル が 言った。
「 扉 の こと を 考えていた」
間 が あった。 鋼鉄 の 兜 が わずか に 傾いた。 顔 を 持たなく なって から の 年月 で 発達 さ せた、 アル なり の 眉 を ひそめる 仕草だった。
「 扉 の こと は 覚えていない」 と アル は 言った。 いつも 同じ よう に 言う のだった。 注意深く、 責める こと なく、 しかし その 下 に 沈む 静けさ は、 責める より も ずっと 重かった。
「 知ってる」 エド は 座席 から 体 を 起こし、 背中 から 不満 げな 音 が 鳴る まで 体 を 伸ばした。「 お前 は まだ 幼過ぎた から」
本当は そう 思っていなかった。 そう 思う の を やめて から、 もう 随分 経った。 しかし アル は そう 信じていた、 あるいは 信じる こと に した ようだった。 だから エド は そのまま に さ せる こと に した。
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国 の 反対 側、 中央司令部 では、 一 人 の 男 が 読みたく も ない 報告 書 を 読んでいた。
ロイ・マスタング 大佐 は、 既に 片付け が 始まった 部屋 の 朝 の 斜光 の 中 に 座っていた。 荷物 は 梱包 さ れ、 管轄 地 へ の 帰還 が 迫り、 軍 の 官僚 機構 は 彼 の 出発 に 向けて 動き始めていた。 マース・ヒューズ が それ を「 任意 で は ない」 という 意味 の 表情 と共に 渡してきた ため に、 イサク・マクドゥーガル 事件 の 最終 報告 書 を 読ま さ れていた。 ヒューズ の 表情 は、 彼 の 他 の 全て が 疲れ させる ものであっ て も、 聞く 価値 が あると ロイ は 長年 かけて 学んでいた のだった。
「 錬 丹 術 か」 と 彼 は 言った。
「 シン から 来た ものだ」 ヒューズ は、 自分 の 快適 さ は 見た目 より 価値 が あると 何 年 も 前 に 決めてしまった か の ような、 ゆったり と した 楽な 姿勢 で 扉 枠 に 寄りかかっていた。「 東 の 国だ、 はるか 東、 イシュヴァル の 向こう。 報告 書 に よれば マクドゥーガル の 凍結 能力 は、 彼ら の 医療 の 伝統 に 由来 する 技術 に 合致 している。 通常 の 錬成 と は 異なり、 地球 の エネルギー の 流れ を 操る ものらしい」 彼 は 少し 間 を 置いた。「 別 の ルール。 ひょっと すると 別 の 限界 も ある かも しれない」
ロイ は 報告 書 を 置き、 しばらく 沈黙 した。 部屋 は 一 分 ごと に 彼 の 部屋 で は なくなっていく ようだった。 どこ か を 去る 準備 を する 時 に 起きる、 空間 の 権利 が 微妙 に 剥奪 さ れていく 感覚 が、 確か に あった。 二 時間 後 に は 列車 に 乗っている。 三 日 後 に は 東市 の デスク に 戻り、 管轄 地 を 管理 し、 部隊 を 管理 し、 物事 を 変え られる ほど の 力 を 得る ため の 長く、 遅く、 忍耐 強い 仕事 を 管理 している。
「 あの 少年 の こと を 考えているだろう」 ヒューズ が 言った。
「 報告 書 の こと を 考えている」
「 お前 は いつも 報告 書 の こと を 考えている。 そして 同時に 少年 の こと も 考えている」 ヒューズ は 微笑んだ。 自分 が 正しい と 分かっていて、 それ を 相手 に も 知らせたい 時 に する 微笑み 方だった。「 いい んだ よ、 ロイ。 弱 さ じゃない」
マスタング は コート を 手 に 取った。「 一緒 に 出口 まで 行ってくれ」
二 人 は 廊下 を 歩いた。 石 と 紙 の 匂い と、 重要な こと が 起き 重要な 人物 たち が その 重要 さ を 見せない よう に している 大きな 建物 の 特有 の 静けさ が 漂っていた。 ヒューズ は 古い 友情 から 来る 気楽 さ で 隣 に 並び、 一瞬 ただ の 二 人 の 人間 として 歩いた。 ロイ は その 贅沢 を 決して 完全 に は 当たり前 に しない よう に していた。
「 なぜ やった んだ」 ヒューズ が 聞いた。 意地悪で は なかった。「 軍 が あの 子 に どう する か 分かっていた はずだ。 どんな 道 の 上 に 彼 を 乗せる こと に なる か、 分かっていた はずだ」
ロイ は しばらく 黙っていた。
四 年 前、 リゼンブール の 家 の こと を 考えた。 あの 家 で 見つけた もの を 思った。
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マスタング が リザ・ホークアイ を 伴って リゼンブール に 到着 した の は、 ある 秋 の 朝 の 薄い 寒 さ の 中だった。 国家 錬金術 師 制度 は 常に 才能 を 求めており、 村 の 子供 たち が 年齢 の 割 に あまりに も 高度な 錬金術 を 行っている という 報告 が あった ため、 見聞き に 来た のだった。 並外れた 才能 を 持つ 子供 に 出会う こと を 期待 していた。 才能 ある 子供 は 存在 する。 対処 できる。
エルリック の 家 の 床 に あった もの を 見つける こと は、 全く 想定 していなかった。
起きた こと によって、 反動 によって、 チョーク は 部分 的 に 破壊 さ れていた。 彼 は 錬金術 が 壊滅 的 に 失敗 した 時 の 様子 を 知っていた から すぐ に 分かった。 しかし それでも 十分 に 識別 できる 痕跡 が 残っていた。 人体 錬成 陣。 材料 は 子供 が 入念 に 丁寧 に 配置 した もの と 分かる 精確 さ で 並べ られていた。 そして 血。 錆び 茶色 に 乾いた 大量 の 血 が 床 を 覆い、 誰 か が 長時間 にわたって 深刻 に 出血 した こと を 示す パターン を 作っていた。
彼 は 怒っていた。 変え られない こと へ の 怒り 方 として、 正確 に、 制御 さ れた 形 で 怒っていた。 無駄 に対して、 方向 を 誤った 輝かしい 愚か さ に対して。 そして その 犯人 を、 隣 の ロック ベル の 家 の ベッド の 上 に 見つけた。 あるべき より も はるか に 小さく 見えた。
エドワード・エルリック は 十 二 歳だった。 そして 彼 は 既に、 本来であれ ば 命 を 奪った はず の 禁じ られた 錬金術 によって、 左 脚 と 右腕 を 失っていた。
ロイ の 怒り は その 現実 と 初めて 接触 した 瞬間 に 消えた。 それ は より 複雑で、 はるか に 居心地 の 悪い もの に 置き換え られた。
弟 の 存在 が、 彼 を 完全 に 止め させた。
廊下 から 金属 音 が 聞こえてきた。 部屋 に 入る 前 の ことで、 その 中空な 金属 の 響き は 自然な もの と は 言えなかった。 扉 を 開いて ベッド の そば に 立つ 鎧 の 姿 を 見た 時、 まず 職業 的な 脅威 判断 が 働いた。 しかし 次に その 大き さ に 気づいた。 子供 の それ を わずか に 上回る だけで、 そして それ が「 兄さん」 と 言う の を 聞いた。 その 声 は 苦悩 と 安堵 の 間 で 揺れている ようだった。 状況 の 計算 が 完全 に 組み替え られた。
鎧 に 縛り付け られた 魂。 不可能だった。 明らか に 不可能で、 ロイ が 頻繁 に 接している ため に もう 驚かなく なった 類 の 不可能 さだった が、 その 作業 の 規模、 十 歳 の 子供 が これ を やった という こと が、 彼 を ピナコ・ロックベル の 台所 に 座ら せ、 しばらく 二 人 の 兄弟 を 黙って 見つめ させた。
「 再生 できる」 と 彼 は ついに 言った。「 失った 人 を 取り戻せる わけで はない。 それ は 無理だ。 しかし 体 は、 失った もの は。 国家 錬金術 師 制度 に は 資料 が ある。 図書館 が ある。 錬成 の 最も 根本 的な レベル を 理解 する こと に 生涯 を 捧げた 人々 が いる。 解決 策 が 存在 する と すれば、 そこ で 見つかる はずだ」
ピナコ は 喜ばなかった。 世界 が 誰 か に 何 か を 売ろう と している 時 を 見分ける だけ の 経験 を 積んだ 者 の 表情 で、 テーブル の 向こう に 座っていた。 ロイ・マスタング より も 多く を 生き延び、 まだまだ 生き延びる つもり の 女性 の 率直 さ で、 彼 を 見て 言った。「 あの 子 たち が 作った もの は 私 が 埋めた。 ふざけた こと を 言う な」
ロイ は エドワード を 見た。
エドワード は ロイ を 見返した。 そして、 少年 の 顔 が 何 か を した 瞬間 が あった。 ロイ は それ を 注意深く 観察 した。 内部 の 交渉 が 結論 を 迎え、 扉 が 開いて 非常 に 暗い 場所 へ 続く 道 が 現れた。 少年 は 目 を 逸らさなかった。
炎だ、 と ロイ は 思った。 充血 した 疲れた 目 の 中 に。 あれ ほど の 悲しみ と 崩壊 の 中 に、 一寸 の 降伏 も ない。
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外 で は、 リザ・ホークアイ が ロック ベル の 庭 で ウィンリィ という 名 の 孫娘 と 向かい合っていた。 祖母 の 率直 さ を 受け継いでいる 少女 で、 単位 面積 あたり に 必要 以上 の 量 を 持ち合わせている ようだった。
「 あなた たち が 彼女 の 両親 を 連れて行った」 ウィンリィ は 言った。 怒り を 込めてで はなく、 事実 が まだ 和らげ られる ものだ と 学んでいない 子供 が 事実 を 述べる よう に、 淡々 と。「 軍人 が 彼女 の 両親 を 連れて行った。 そして 今、 エド と アル を 連れ に 来た」
リザ は それ に 値する 真剣 さ で、 少し 考えた。
「 決める の は 彼らだ」 と 彼女 は 言った。「 誰 か を 連れて行く ので はない。 提供 できる もの が ある。 決める の は 彼ら 自身だ」
「 なぜ」 と ウィンリィ は 続けた。「 なぜ そう する の? なぜ 誰 か が 軍人 に なる の?」
リザ は 少し 間、 家 を 見た。 窓 の 向こう で、 ロイ・マスタング が おそらく 十 二 歳 の 少年 に 世界 は まだ 交渉 の 余地 が ある と 説明 している はず の 窓 を。
「 誰 か を 守る ため に」 と 彼女 は 静か に 言った。
ウィンリィ は それ に対する 答え を 持っていなかった。 おそらく、 そういう 答え は 反論 を 許さない 種類 の ものだった からだろう。
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「 炎 が 見えた」 と ロイ は 言った。
二 人 は 入口 に 辿り 着いていた。 朝 は 灰色 く 寒く、 首都 の 匂い が した。 石 の 埃 と パン の 匂い、 何 世紀 に も わたって 閉じた 空間 で 同じ 食事 と 呼吸 を 繰り返してきた 街 特有 の 澱んだ 匂いだった。
「 炎」 と ヒューズ が 繰り返した。
「 あいつ の 目 の 中 に」 ロイ は コート を 羽織りながら 言った。「 なぜ やった か を 聞きたかっただろう。 それ が 理由だ。 あの 二 人 の 兄弟 は 既に 地獄 を 経験 して 戻ってきていて、 歩いて 戻ってきた 方 が 前 に 続く 道 を あの 顔 で 見ていた。 その 道 を 歩く ため に 存在 する のだ と 決めた ような 顔 で。 その 道 が 気 に 食わなけれ ば より 良い 道 に 変える ため に 道 と 議論 する ような 顔 で」 彼 は 一番 上 の ボタン を 留めた。「 そういう 少年 は、 俺 の 力 が あって も なく て も 何 か を する。 少なくとも 俺 の 力 が あれば、 可能 性 が 生まれる」
ヒューズ は しばらく 黙っていた。 そして 言った。「 それ は とても 賢明な 考え か、 とても 都合 の 良い 考え か、 どちら かだ な」
「 おそらく 両方だ」 と ロイ は 言った。「 気 を つけて な、 ヒューズ」
「 撃た れる な よ」
「 東市だ。 約束 は できない な」
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列車 の 中 で、 記憶 は 重要だった もの に 特有 の 鮮明 さ で 浮かび上がってきた。
ピナコ は 自動 鎧 の 回復 の ため に 三 年間 くれる と 言っていた。 エドワード は 工房 で ピナコ と 向き合った。 工作 台 に 並べ られた 義肢 を 見ながら、 隅 に 静か に 立つ アル を 見ながら、 全て の 重 さ が 全て の もの の 上 に 圧し 掛かっている の を 感じながら、 彼 は 言った。 一 年 で やる、 と。
ピナコ は エド を 見つめた。
一 年だ、 と 彼 は 繰り返した。 何 を すれば いい?
それ は 彼 の 人生 で 最悪 の 年 の 一つ に なった。 これ は ある程度 の 競争 を 伴う 言明だった。 自動 鎧 の 取り付け は 苦痛であり、 使い方 を 覚える の は さらなる 苦痛だった。 神経 接続 は 生物 学 の 残酷な 忍耐 によって ゆっくり と 再 構築 さ れていき、 彼 は ピナコ が 勧める 痛み 止め を 全て 断った。 痛み 止め は 動き を 鈍ら せ、 鈍 さ は 時間 を 消費 し、 時間 は 彼 が 費やす こと の できない ものだった からだ。 鋼鉄 の 上 を 歩く こと を 学んだ。 腕 を 使う こと を 学んだ。 ウィンリィ が 自動 鎧 が 完成 する 前 に 自分 の 歯 を ダメ に するなら 顎 を 針金 で 縫い 付けると 脅す まで 歯 を 食いしばり続け、 それでも 食いしばり続けた。 叫ぶ より ましだった からだ。
一 年 後、 ロック ベル の 庭 に 立ち、 錬成 陣 なし に 両手 を 合わせる だけ で 錬成 を 行い、 アル の 鋼鉄 の 顔 が 驚愕 と 読み取れる 表情 に 変わる の を 見た。
「 俺 たち の 師匠 も それ が できる」 と アル が 言った。
「 ああ」 エド は 弟 を 注意深く 見た。「 お前 は できる か?」
アル は しばらく 黙っていた。 そして 言った。「 どういう 意味? どの 扉 の こと?」
追及 しなかった。 まだ 向き合う 準備 が できていない もの を 入れておく 心 の 中 の 場所 に、 それ を 仕舞い 込んだ。 目 の 前 の 仕事 の 後ろ に、 鍵 の かかった 部屋 の 隅 に。 アル は 覚えていなかった。 アル の 魂 は 虚無 を 通り過ぎて 戻ってきた が、 まだ 言葉 を 持っていない 何 か が 奪わ れていた。 言葉 を 見つける。 対処 する 方法 を 見つける。
彼 は 国家 錬金術 師 試験 を 受ける ため に 中央 市 に 行った。
総統 自ら が 立ち会っていた。
キング・ブラッドレイ は、 他 の 人間 と は 異なる 形 で 空間 を 占拠 する 人物だった。 体 が 大きい わけで も 声 が 大きい わけで も なく、 しかし 気づかない 間 に 部屋 が 彼 を 中心 に 微妙 に 再 編成 さ れた か の よう に、 自分 の 寸法 を 意識 さ せ られる ような 存在 感 が あった。 彼 は 試験 を、 予想 外 に 楽しま さ れている もの を 見ている 者 の 特別な 注意深 さ で 観察 していた。 エドワード が 実演 を 終えた 時、 石 の 槍 を 錬成 して 総統 の 喉元 一 寸 手前 で 止め させた のだ が、 これ は 振り返れば 天才 的だった か 自殺 的だった か の どちら かであり、 今 も どちら か 判断 しかねていた が、 ブラッドレイ は しばらく 彼 を 見て、 エド が 読み取れない 表情 を した。
そして 笑った。
認定 を 承認 した。
ある 将官 が 懐中時計 を コート に 留め、 彼 を「 鋼鉄」 と 呼んだ。 エドワード は そこ に 立っていた。 十 二 歳で、 武装 さ れ、 自動 鎧 で 強化 さ れ、 現実 の 根本 的な 構造 に 干渉 する 国家 認定 を 受けて。 そして 彼 は 思った。 そう か。 これ で 本当に 始め られる、 と。
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列車 が 速度 を 落としていた。
エド は 冷たい ガラス に 額 を つけ、 朝もや の 中 に リオール の 町 が 現れる の を 見た。 尖塔 の ある 建物 群、 市場 地区 の 広く 淡い 通り、 温かく なり そうな 一 日 の 最初 の 光 を 受けた 教会 の 塔。 下 の 通り に は 人々 が 既に 動いていた。 小さく、 目的 を 持って、 朝 の 日常 という 機械 を 動かしながら。
その 町 の どこ か で、 ある 男 が 奇跡 を 起こしていた。 その 町 の どこ か で、 賢者 の 石 の 噂 が 二 年間 探し続けてきた 手がかりな の か、 消し込むべき また の 行き止まりな の か、 どちら かだった。
彼 は 立ち上がり、 荷物 を 持った。 アル が 親しんだ 音 を 立てながら 隣 に 立ち上がった。
「 準備 は いい?」 と アル が 聞いた。
エド は 町 を 見た。 ここ へ 連れてきた 全て の こと について 考えた。 台所、 錬成 陣、 扉、 白い 虚無、 代価、 腕、 苦痛 の 一 年、 総統 の 喉元 の 槍、 ポケット の 中 の 懐中時計、 軍 の 所有 物 と なり 軍 の 資源 を 使える こと を 意味 する その 時計 について。
「 いつも 準備 できている」 と 彼 は 言った。 これ は 完全な 真実 で は なかった が、 言うべき 言葉だった。
列車 が リオール 駅 に 入った。 教会 の 塔 の 鐘 が 朝 の 時 を 刻み始め、 扉 が 開き、 二 人 の 兄弟 は、 まだ 見えない ところ で 既に 二 人 を 待ち受けていた 町 へ と 歩み 出た。