フランスとスイスの国境付近の地下深くに、全長27キロメートルの巨大な円形加速器がある。そこでは陽子がほぼ光速で飛び回っている。2026年4月、世界最大級の素粒子実験施設が、物理学の根幹を揺るがす可能性のある結果を発表した。
50年以上にわたり、標準模型は素粒子物理学の「成功物語」として知られてきた。しかし今回、CERNのLHCb実験が測定したデータは、標準模型の予測と一致しないことが明らかになった。この差は「4シグマ」と呼ばれる統計的偏差で、偶然である確率は約1万6000分の1に過ぎない。
問題となっているのは「ペンギン崩壊」と呼ばれる非常にまれな現象だ。Bメソンという重い不安定粒子が崩壊する際に生じる角度パターン「P5′」が、理論の予測とずれていた。さらに注目すべきは、全く別の検出器であるCMSも独自のデータから同じ異常を確認したことだ。
2つの独立したチームが、2つの異なる装置を使って同じ結果を得た。これは単なる誤差では説明しにくい。
最も有力な説明は、標準模型の範囲内にある「チャーミングペンギン」と呼ばれる過程だが、研究者によればこれだけでは偏差を完全に説明できないという。もし標準模型を超えた新物理学が存在するならば、「Zプライムボソン」や「レプトクォーク」のような未知の粒子が関係している可能性がある。
物理学で「発見」と認められるには5シグマが必要だ。現在の結果はまだそこに達していないが、LHCbはすでに大量の新データを蓄積している。答えはアルプスの地下に眠っているかもしれない。