タケミチは動けなかった。
ドラケンが地面に倒れていた。 片腕がアスファルトの上に伸びていて、下の暗い染みはどんどん広がっていました。 タケミチの足は、頭が考えるより先に動いた。 ドラケンの横に膝をついて、両手で傷口を押さえた。 手のひらにドラケンの血の熱さが伝わってきた。 自分が何かを言っているのは分かったが、何を言っているのかは分からなかった。
「ドラケン。ドラケン、しっかりしろ。」
周りでは、東卍とメビウスの戦いが続いていた。 体がぶつかり合い、倒れ、叫び声と骨のぶつかる音が空気に広がっていました。 でも、それが全部現実に感じられなかった。 現実に感じられるのは、これだけだった。 ドラケンの胸が、浅く、速く、上下していること。
タケミチは顔を上げて、マイキーを呼んだ。
マイキーはもう動いていた。 人混みを切り裂くように、こちらへ向かってきた。 その顔には、目的以外の何も残っていなかった。 でも、半間俊士がマイキーの前に立ちはだかった。 半間は背が高く、体の力が抜けたような動き方をしていた。 何かを楽しんでいる人間の動き方だった。 タケミチには聞こえなかったが、半間がマイキーに何かを言った。 マイキーは横へ回ろうとした。 半間も動いた。 もう一度試した。 半間もついてきた。 マイキーが拳を出すと、半間はもうそこにはいなくて、笑っていた。
マイキーは通れなかった。 距離を越えて、タケミチのほうを一瞬だけ見た。 その瞬間、マイキーの顔は全部開いていた。
「タケミチ、」とマイキーが呼んだ。「頼んだ。」
それから半間のほうへ向き直り、二人は激しくぶつかり合った。
タケミチはドラケンを見下ろした。 ドラケンの目は開いていて、焦点が合わないまま空を見ていた。 首の横に入れ墨が伸びて、髪の生え際に消えていました。
「分かった、」とタケミチは言った。マイキーに。ドラケンに。自分自身に。「分かった。」
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ドラケンを背中に乗せた。 簡単ではなかった。 ドラケンはあらゆる方向でタケミチより大きく、タケミチの足はその重さで震えていた。 でも膝を固めて、体を起こして、動き始めた。 一歩。もう一歩。 戦いから離れた、駐車場の端、通りのほうへ向かって進んだ。
危うく日向にぶつかりそうになった。
日向はエマと一緒にいた。 二人とも息が上がっていて、顔は恐怖で固まっていました。 エマの目はすぐにドラケンに向いた。
「救急車を呼びました、」と日向がすぐに言いました。「来ます。動かさないようにして。」
タケミチはゆっくり体を下げて、ドラケンをまた地面に横たえた。 横に膝をついて、両手を傷口に強く押し当てた。 エマが反対側にしゃがんだ。 日向は立ったまま道を見ていました。
待った。
ドラケンの目が動いて、タケミチの顔を見つけた。 声は低く、かすれていた。「戻ってきたんだな。」
タケミチは何も言わなかった。
「馬鹿だな、」とドラケンは言って、少し笑いそうになった。
それからドラケンの目がタケミチの向こうへ向いて、表情が変わった。
タケミチは振り返った。
清水将貴がこちらへ歩いてきていた。 六、七人の仲間を連れて、横一列にゆるく広がっていた。 急いでいなかった。 手にナイフを持っていた。 もう血がついていた。 ドラケンの血が。 清水はタケミチを見ていた。 もう終わったものを見る目で。
タケミチの胃が落ちた。 体全体が逃げたがっていた。 物理的な引力として感じられた。 全部の本能が通りのほうを、遠くへ、ここではない場所を指さしていた。
ドラケンの手がタケミチの手首に触れた。紙のように軽く。
「女の子たちを連れて行け、」とドラケンは静かに言った。「連れて逃げろ。」
タケミチはドラケンを見た。 ドラケンの顔は今では青白くなっていて、汗でぬれていたが、目は落ち着いていました。
タケミチは逃げることを考えた。 以前にもやったことがあった。 十二年間やり続けてきた。 清水から逃げた。 廊下から逃げた。 見たくなかった自分の姿から逃げた。 逃げても、全部失ってしまった。 日向も、友達も、なれたかもしれない自分も。
立ち上がった。
清水のほうへ歩いた。
清水は足を緩めて、タケミチを見た。 その表情に何かが動いた。 恐れではなかったが、計算し直すような何かだった。
「まだ終わってない、」とタケミチは言った。 「お前と俺。一対一。まだ終わっていない。」
清水は長い間タケミチを見た。 それから笑った。 短く、意地の悪い笑い声だった。 「頭がおかしくなったのか。」
「かもしれない、」とタケミチは言った。 「それでも戦え。」
後ろから、ドラケンのかすれた、でも確かな声が聞こえた。 「こいつが勝つ。」
それから日向の声。 「こいつが勝つ。」
エマの声。 「こいつが勝つ。」
清水の笑いが止まった。 顎が固まった。 三人を見た。 瀕死の幹部と、二人の女の子。 三人ともタケミチの背中を完全な確信で見ていた。 清水の目の奥で何かが変わった。 ナイフを持ち上げた。
「これは戦いじゃない、」と清水は言った。 「処刑だ。」
刃をタケミチの腕に刺した。
タケミチは叫んだ。 膝が折れそうになったが、片手をアスファルトについてこらえた。 腕から肩へ、頭の後ろへ、白い痛みが走った。 ナイフは清水の手に戻っていた。 今はタケミチの血で濡れていて、清水はまたナイフを上げていた。
タケミチは立ち上がった。
清水が殴り、タケミチは倒れた。 また立ち上がった。 拳を出したが、清水に弾かれて、顔を殴られて、また倒れた。 頬がアスファルトについて、血の味がした。
あの廊下を思い出した。 十四歳のとき、夢でいっぱいだった自分を思い出した。 誰かになること、不良の世界で上へ上がること、何かの頂点に立つことを夢見ていた。 清水が三分でそれを全部壊してしまったことを思い出した。 その後、自分は弱すぎると決めてしまったことを。 また試して、また失敗するよりも、試さないほうが楽だと決めてしまったことを。 その決断をしてから、十二年間守り続けてきた。
それが、自分が今までにやった最悪のことだった。
立ち上がった。
殴るのをやめた。 頭を下げて突進して、両腕で清水を抱えて、後ろへ押し倒した。 清水のほうが大きかったが、タケミチはもうそれを気にしていなかった。 二人は一緒に地面に倒れた。 タケミチは清水の腕に歯を立てて、強く噛んだ。
清水が叫んだ。 タケミチの頭を一度、二度、三度殴った。 視界がちらちらしたが、顎は開かなかった。 もっと強く噛んだ。 清水の拳がまた落ちてきた。 自分の血の味がして、それでも放さなかった。
体の重さを動かした。 何とか清水の後ろに回り込んで、腕を喉に回して、肘のところで固定した。 清水は暴れて、ナイフが入った前腕に指を食い込ませてきた。 痛みは凄まじかった。 タケミチは放さなかった。
「俺はマイキーじゃない、」とタケミチは歯を噛みしめながら、震えながら、清水の耳に言った。 「それは分かってる。強くない。速くもない。」 腕を締めた。 「俺は花垣タケミチだ。」
清水の動きが遅くなった。 手が落ちた。 体の力が抜けた。
タケミチは確かめるまで放さなかった。 それから放した。 清水は意識を失って地面に倒れた。
タケミチは立ち上がった。 腕から血が流れ続けていた。 顔はもう腫れていた。 足は完全には信頼できなかった。 振り返って、清水の仲間たちを見た。 六人か、七人か、全員がタケミチを見つめていた。
日向を見た。
「エマを連れて逃げろ、」とタケミチは言った。 「行け。」
日向は一秒だけタケミチと目を合わせた。 それからエマの腕を取って、二人は走った。
タケミチは清水の仲間たちと向き合った。 後ろからドラケンの声が聞こえた。 低く、弱かったが、確かにあった。
「天国ってどんな感じか分かるか?」とタケミチは振り返らずに聞いた。
ドラケンが笑うのが聞こえた。 本物の笑い声だった。 短くて、痛そうだったが、本物だった。 それから気配があって、ドラケンが横に現れた。 立っていて、片手を脇腹に当てて、紙のように青白い顔で笑っていた。
「お前は地獄に行くぞ、」とドラケンは言った。
清水の仲間たちが前に出てきた。
そのとき、横から拳が飛んできて、一人が倒れた。 ナイフがアスファルトの上を滑っていった。
篤志がその上に立っていた。 拳が赤くなっていて、息が切れていた。 タケミチを見た。 「日向が電話してくれたので、」と彼は言った。
誠がもう一方の側から来た。 それから拓哉。 それから一志。 四人がタケミチとドラケンの前に並んで、仲間たちと向き合った。 誰も勝てそうには見えなかった。 誰も動かなかった。
清水の仲間たちが攻めてきた。 四人は次々と倒れた。 でも、次々と立ち上がった。 誠の唇が切れた。 拓哉は肋骨を押さえていた。 一志の額から血が流れていました。 篤志は二度倒れて、二度立ち上がった。 立ち上がるたびに、あの廊下のことを考えていた。 立ち上がる理由がないのに立ち上がった一人の少年のことを。 だから地面にはいなかった。
戦いは続いた。 清水の仲間たちは数の上では勝っていたが、別の何かで負けていた。
そのとき、通りの向こうからサイレンの音が聞こえた。 もう一つ。 音が大きくなって、赤い光が通りの端の建物の上を動いた。 タケミチはそれを聞いて、胸の中でずっと固く巻いていた何かが緩むのを感じた。 ドラケンが倒れているのを見た瞬間から、ずっと張り続けていたものが。
笑顔になった。 止められなかった。 顔が痛かったが、それでも笑った。
勝った。