メビウスは四方から迫ってきた。
タケミチはその真ん中に立って、すぐに分かった。 もう計画なんてない。 あるのはこれだけだ。 体が押し合い、拳がすでに動いていて、狭い路地に出口はなかった。
小佐奈井を見た。 タケミチの未来では、この男は壊れた姿だった。 謝ってばかりで、小さくなっていて、何もない人間だった。 でも今ここに立っているのは二つ年下で、体は二倍も大きい男だ。 首の緊張をゆっくりほぐしながら、まるで大したことではないというように立っていた。 パーちんはもう小佐奈井の足元に倒れていた。 小佐奈井は体勢を変えることすらしなかったのだ。
タケミチには理解できなかった。 ずっと見つめてしまった。
小佐奈井は気づいた。
「何を見てる?」小佐奈井はすぐに距離を詰めて、質問が終わる前にタケミチの顔を殴った。
地面が急に来た。 タケミチは血の味がして、耳鳴りが聞こえた。 耳鳴りはなかなか止まらなかった。
それからパーちんがそこにいた。 タケミチの上をまたいで、拳を上げてタケミチと小佐奈井の間に立った。 唇はもう切れていて、片目は腫れて閉じかけていた。 でも、立っていた。
「パー。」マイキーの声が後ろのどこかから聞こえた。 落ち着いた声だった。 「お前の喧嘩だ。俺たちは見てる。」
東卍の仲間たちは動かなかった。 メビウスの連中は笑った。
パーちんはもう一度小佐奈井に向かった。 そして小佐奈井は最初と同じやり方でパーちんを倒した。 怒りもなく、丁寧に、まるで何かを教えているようだった。 パーちんが打った拳は全部弾かれるか、かわされてしまった。 小佐奈井の一発一発はきれいに当たった。 それは長く続いた。 パーちんが何度も立ち上がったからだ。 それだけが、この戦いで唯一の優しさだったかもしれない。
パーちんがもう立てなくなったとき、前に倒れた。 マイキーが入ってきて、地面に倒れる前にパーちんを受け止めた。
パーちんはマイキーの袖を掴んだ。 「ごめん」と言った。 声が濡れていた。 「俺、役立たずだ。」
「違う」とマイキーは言った。 「お前はまだ負けてない。」
メビウスはそれを笑った。 何人かが声を上げた。 東京卍會のことを馬鹿にして、総長が仲間がやられるのを見ているのに勝ちだと言っているとからかった。 笑いが群衆の中に広がっていった。
マイキーはパーちんをそっと下ろした。 それから立ち上がって、小佐奈井に向かって歩き始めた。 表情は全く変わらなかった。
マイキ��は一度だけ蹴った。 たった一発。 小佐奈井は地面を離れて、そのまま起き上がれなかった。
笑い声が止まった。
マイキーは崩れた小佐奈井の上に立って、メビウスの全員に聞こえるように声を上げた。 「パーが負けたと思うやつは前に出ろ。俺が自分で殺す。」群衆を見渡したが、誰も動かなかった。 「俺が東卍と一緒に立っている限り、東卍の誰も負けない。誰もだ。」
静寂が続いた。
そのとき、小佐奈井が動いた。 片膝をついて立ち上がり、手に割れた瓶を持っていた。 どこから来たのか、誰も見ていなかった。 小佐奈井は立ち上がって、前に突進した。
ドラケンが前に出てきて、片手で止めた。 まるで遅すぎる球を受け止めるように、ただ止めた。
ドラケンは小佐奈井の手首を掴んで、怒りではない表情で見た。 それよりもっと冷たいものだった。
「お前が負けたのは」とドラケンは言った、「これが何のためにあるかを忘れたからだ。お前は女性を傷つけた。誰かの親に手を出した。」瓶を取り上げた。「だから負けたんだ。」
小佐奈井は何も言えなかった。 立っているのもやっとだった。
群衆の端にいたメビウスのメンバーたちは、お互いを見始めていた。 来るときに期待していたものとは全然違った。 マイキーとドラケンが路地の真ん中に立っていて、状況は完全に変わってしまっていた。
ドラケンは全員に向かって言った。 「メビウスは今日から東京卍會に従う。それで終わりだ。」
遠くからサイレンの音が聞こえた。 それからもう一つ。
誰かが「警察だ」と叫んで、群衆は散った。 メビウスは一方へ、東卍のメンバーはあらゆる方向へ。 一分も経たないうちに路地は空になった。
タケミチも一緒に走った。 走りながら、未来で小佐奈井から聞いたことを考えた。 この喧嘩が、この夜が、引き金だったと。 全てを狂わせたものだと。 でも、何も狂わなかった。 マイキーが勝った。 ドラケンが話した。 メビウスは折れた。 終わり方はほとんど穏やかだった。 そして「穏やか」という言葉がタケミチを不安にさせた。 なぜなら、自分が来た未来では、その夜が穏やかに終わったとはとても思えなかったからだ。
まだそのことを考えていたとき、音が聞こえた。
止まった。
振り返った。
パーちんが、今は誰もいない路地の真ん中で、小佐奈井の倒れた体の上に立っていた。 手に何かを持っていた。 そのまま振り下ろした。
「そんな簡単に許すわけにはいかない」とパーちんは言った。 声はとても静かだった。
小佐奈井は声を出さなかった。 もう気を失っていたのだ。 そして、パーちんは刺してしまった。
止まって見ていた全員が、ちょうど一秒間、動けなかった。 それからパーちんは体を起こしてマイキーの方を向いた。 その表情は荒れ狂ったものではなかった。 疲れ切っていて、もう決まったという顔だった。
「ごめん」とマイキーに言った。 「逃げろ。みんなも。俺は自首する。」
「パー――」
「行け。」
全員が走った。 タケミチも走った。 足が動かなくなるまで走って、路地が傾いて、視界の端から暗闇が入ってきて、全てを飲み込んだ。
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目が覚めたら、病院のベッドにいた。
エマが隣に座っていた。 目が赤かった。
「目が覚めたんだね」とエマは言った。
タケミチはしばらく天井を見た。 「マイキー」と言った。 「ドラケン。あの二人は――」
「大丈夫よ。」エマは唇を閉じた。 「ただ、喧嘩してる。」
「誰と?」
「お互いと。」エマは手元を見下ろした。 「パーちんが捕まったことで、二人の間に何か火がついてしまったみたい。今は二つの派閥があるの。マイキーの側と、ドラケンの側。」 首を振った。 「東卍が分裂しそう。」
エマは静かに泣き始めた。 前に体を曲げて、顔を横に向けて。 タケミチは起き上がって、エマは気がつくと彼の膝の上に頭を乗せていた。 肩が震えていた。 タケミチは何を言えばいいか分からなかったので、何も言わなかった。
そのとき、ドアが開いた。
ヒナタが入り口に立っていた。 エマを見た。 タケミチを見た。 この状況全体を見た。
「あ」とヒナタは言った。
「これは違くて――彼女はただ――」とタケミチは言い始めた。
ヒナタの表情はとても素早くいくつかのものを経て変わった。 そして出て行ってしまった。 タケミチは病院にいる残りの時間ずっと、問題というものは一度に来るものだということを考え続けた。
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家に帰ってから三日間は、人間という感じがしなかった。
二日目の終わりに、もうどうしようもなくなったので、古いジグソーパズルを見つけて完成させた。 千ピースだった。 タケミチは自分でも不思議なくらい、それが誇らしかった。
三日目に、ヤマギシ、マコト、タクヤ、アッくんが来て、状況を教えてくれた。 東卍は深刻な状況で、マイキーとドラケンの分裂は本物のように見えて、事態は悪い。 そういう内容を、みんなは重々しく、適切な重さで伝えた。
それからヤマギシが笑い始めた。
「でもさ」とヤマギシは言った、「あの二人、いつも喧嘩してるんだよ。本当に何でもかんでも。」
「先週、自販機の前で喧嘩してたよ」とマコトが言った。
「一人がスポーツドリンクを買いたくて――」
「スポーツドリンクで殴り合ってたんだよ、二人とも。」
タケミチは彼らを見た。 「じゃあ、深刻じゃないの?」
「深刻だよ」とアッくんは言った。 「ただ……あいつらはああいうやつらだから。」
みんなまだ笑っていたとき、玄関のドアが開いて、ドラケンが入ってきた。 ドアの枠に頭を下げて通り、片腕に西瓜を抱えていた。 まるで前もって連絡するのが当たり前ではないかのように。
部屋を見回した。 部屋も彼を見た。
「西瓜を持ってきた」とドラケンは言った。
床に座って食べた。 ドラケンは胡座をかいて、あまり大げさな様子もなく自分のひとくちを食べた。 そしてやがて、食べながら話してくれた。 パーちんは一年間拘留されることになる。 小佐奈井は生きている。 二つ目のことは感情を入れずに言って、そのまま場に落ちた。
タケミチはマイキーのことを聞いた。
部屋の温度が数度下がったような気がした。 ドラケンは食べた後の皮を置いて、両手をテーブルに平らに乗せた。
「あいつとはもう終わった」と言った。 テーブルを一発叩いた。 全力ではなかったが、完成したパズルのピースが飛び上がって散らばるくらいには強かった。 「東卍は分裂する。それで終わりだ。」立ち上がって、タケミチに一度頷いて、出て行った。
パズルは台無しになってしまった。 タケミチは散らばったピースを見た。
「二日かかったんだけど」と言ったが、誰もいなかった。
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外では、タケミチの家の前の道で、ドラケンはもう少しでマイキーとぶつかりそうになった。
二人は止まった。 お互いを見つめた。
「何してんだ?」とドラケンは言った。
「タケミチに会いに来た」とマイキーは言った。 「お前こそ何してんだ?」
「タケミチに会いに来た。」
「あいつは俺の友達だ。」
「俺の友達だ。」
タケミチはドラケンの後を追って外に出て、入り口に立ってこのやりとりを見ていた。 一歩前に出て、「二人とも、頼むから――」と言った。 どうやらそれは言ってはいけないことだったようで、ドラケンが振り向いて口を出すなと言った。
マイキーは壁に立てかけてあったタケミチの自転車を手に取った。 しばらく眺めた。 ドラケンに投げた。
ドラケンは体をかわして、自転車は壁に当たってタイヤが歪んでしまった。
「俺の自転車だぞ」とタケミチは言った。
ドラケンは家の中に入って、タケミチが人生で初めてホームランを打ったアルミのバットを持って出てきた。 ドラケンにはそんなことは知る由もなかったが、タケミチには分かった。 そしてドラケンは膝でそれを折ってしまった。
「それは――俺がホームランを打った――」
二人は聞いていなかった。 嵐が部屋を通り抜けるように家の前を動き回り、ものを拾っては互いにぶつけた。 タケミチは後ろをついて歩きながら、一つひとつが壊れていくのを見た。 何年も持っていたもの、もう取り替えられないもの。 バットの次に何が来たかは分からないうちに、タケミチの中でも何かが折れてしまった。
「やめろ。」
声は思ったより大きく出た。 二人とも振り向いた。
タケミチは家の前の庭の残骸の中に立って、息を切らして、二人を見ていた。 もう恐れや遠慮のための場所は残っていなかった。
「やめてくれ」と言った。 「二人とも。今すぐ。」